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霜解け [自然]



 冬の朝、起きるのは苦手です。起きて出かけなければいけないとき、着替えが夏に比べて手間取るのも慌ただしく嫌です。

 起きてようやく着替えを済ませ、空が晴れているといつも裏山のことを思います。ひょっとしたら野鳥に出会えるかも良い写真が撮れるかも知れないと。

 野鳥を求めて裏山へ写真を撮りに行くようになってから冬の朝が好きになりました。夏にはそんな早く起きられない私でも、冬の朝なら野鳥が起き出して動き出す時間に間に合うのです。


 霜が降りた寒い朝、あたりは一面白く凍り付いています。やがて山の向こうに朝日が昇ってくる兆し、空がオレンジ色に照らし出されます。

 山の上から白くまぶしい斜めの光りが地上に降り出します。その光の強さには驚かされます。草の回りに白く固まっていた霜がみるみる溶けて、大地は露に濡れ鮮やかな緑や茶色に蘇ります。

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 家の裏の畑の霜が溶けた頃、裏山の入口に向かっても大丈夫です。裏山の裾ではまだ白い霜に覆われているところ、霜が溶けて白い蒸気を上げているところ、露に濡れて輝いているところ、霜と露が乾いてしまったところがグラデーションになって広がっています。


 雑木林の中、常緑樹の葉にたまった露が折からの陽の光に照らされてきらっきらっと光ります。露が滴って落ちる音、鳥を追っているとそんな光りや音に惑わされます。

 雑木林の奥や高い木々の上で野鳥たちの囀りがかまびすしいのですが、肉眼でちらっと見ることが出来てもなかなかファインダーで捉えることが出来ません。メジロ、ヤマガラ、シジュウカラ、ヒヨドリは裏山の常連です。

 山道いっぱいに落ち葉が敷き詰まっていて、その上を歩くとかすかな音がします。鳥を追うには気になる音ですが、その音や落ち葉を踏みしめる足裏の感触が心地良いのです。

 鳴き声や鳥影を追って歩き回る私の足下から、突然一羽の野鳥が白い腹を見せて翻るように飛んでいってしまいます。しまったと飛んでいった方向を目で追いながら何の鳥だったのだろうと思います。

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 雑木林の暗がりの中、大きな木の幹でコゲラがコツコツと音を立てていました。少し暗いのですがその白と黒のストライプの背にカメラのレンズを向けます。

 連写でシャッターを押していると、その音が聞こえたのか、それまで一心不乱に木をつついていたコゲラが、くいと首を上げてあたりをきょろっと見回します。私が息をひそめているとまた何事もなかったように木を突く動作に戻っていきました。


 冬になると毎年ルリビタキが止まりに来ていたハゼの木、いつの間にか伐採されてしまったその木があったあたりを死んだ子の歳を数えるように見回します。

 その周りには、切り取られてもまたその幹から新しい枝が出ていつの間にか青い葉をいっぱいに茂らせている木がありますが、ハゼの木は再生してきません。そこでルリビタキを見かけなくなって何年経つことか。


 天井川に水はありません。代わりに川床に生えたススキの群落が穂に光を浴びて風に靡いています。光るススキの穂の群れはまるで川の流れのように見えます。

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 天井川の土手では、霜が溶けて白い蒸気が立ち昇っています。蒸気は生き物のようにもくもくと沸き上がり、かすかな風に揺られて流れていきます。

 空気中の水蒸気が長く冷たい夜の間に冷やされて霜になるのですが、再び太陽の光に暖められて溶け白い水蒸気となって立ち上がっていきます。

 斜めに降り注ぐ陽の光を背景に立ち上がる白い蒸気の流れと、逆光になった木の幹のコントラスト、暗い杉木立の間に斜めに差している光の筋が靄って見えるのも水蒸気のせいでしょうか。


 自然は、じっとしているようで能弁ですね。こちらが目を凝らし耳を傾けると実にいろいろな姿を見せてくれます。しかも刻一刻と姿を変えてとどまることを知りません。

 鳥を撮るために持ってきた望遠レンズを持ち歩き、鳥を追っかけてはそこで出会った風景を片っ端から撮りました。広角レンズを持ってこなかったことを悔やみながら。

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