先日の朝、出勤するため職場に向かって車を走らせていると、車窓に朝日を浴びている集落の裏山が見えました。雪をいただいてまるで信州か北の方の山のように輝いています。あまり見慣れない光景でしたので、信号で止まったおり、スマホのカメラで撮ってみました。


 さて、オークションで落札したSPーLE8Tです。20センチフルレンジ一発なので、小さいサイズを想像していたら、届いた荷姿が大きくて驚きました。重さも想像以上でした。これではとても妻に隠れてこそこそと部屋に持ち込む事は出来ません。

 分厚い段ボールの箱から、クッション材、包装まで、出品者のSP-LE8Tに対する思い入れと敬意を感じさせる丁寧な梱包でした。スピーカーというのに、出品者手製のマニュアルまで添えられていました。

 (正面にあるLUXのチューナーとアンプはオブジェというと聞こえは良いのですが、実際は置き場が無いのでそこに置いているだけです。従って結線はしていません)

 SP-LE8T、こうして部屋に据え付けてみると、なかなか風格を感じさせますね。さすが1960年、70年代を代表するビンテージJBLです。

 それにしても、その当時からすでに40年あまりの歳月が流れているのですが、回り回って60代の私がサンスイ&JBLの格子縞のスピーカーを所有することになるとは思ってもいませんでした。

 20代の私は、ジャズとオーディオに明け暮れていました。当然、JBLのスピーカーには強い憧れを抱いていましたが、ジャズ喫茶にあるのは大型のシステムばかり、一方安月給、安アパートの私が所有できるスピーカーは限られています。

 その頃、民生用JBLとして一番小さくて安かったのがL26DECADEとかL16DECADEでした。大きさ的には私の部屋でも置けそうでしたが、値段が一本で7万円、多分給料とあまり変わらなかったかそれ以上だったと思います。とても手が出ませんでした。

 同じ頃、SP-LE8Tも同等か少し安い値段で発売されていたはずなのですが、なぜかほとんど記憶がありません。多分、その頃の私はフルレンジLE8Tの良さを知らなかったのだと思います。また、ジャズという外国の音楽を聞くのに、サンスイの格子縞が和風に見えて、興味を引かなかったのだと思います。

 (当時、友人がサンスイの格子縞のスピーカーを所有していました。彼はそのスピーカーを真空管アンプで鳴らしクラシックを聞いていました。多分、それはSP-LE8Tではなくサンスイのオリジナルスピーカーだったと思います)

 部屋の中央にあったSP-LE8Tと同世代のスピーカー、SCANDYNA A25MK2を外して代わりにSP-LE8Tをセットしました。すぐにも音出ししたいところですが、添えられているマニュアルにはエージングをするように書かれていました。

 中古だからエージング不要なのではと思ったのですが、エッジを交換されレストアされているので新品同様のエージングが必要なのかも知れません。ここは出品者の指示に従うことにしました。

 数時間のエージングも済ませていよいよ音出しです。SP-LE8Tを所有されていたり、かつて所有されていた方のほとんどが高域不足に悩まされるとおっしゃっているので、音を聞くまで少し心配と緊張がありました。出品者のマニュアルでさえ、ツィーターの追加に言及しているほどです。

 初めに聞いたのはクリフォード・ブラウンのメモリアルアルバムでした。聞き慣れた彼のトランペットがどんな音に聞こえるのかもっとも気になるところです。

 気持ち良くトランペットが吹き上がって思ったより綺麗な高音が出たので一安心です。いやむしろどこが高域不足なのだろうと思うくらい気持ちよい高音が出ています。反対に自慢の低域がJBLらしくありません。音が弾みません。なんだかもごもご籠って聞こえます。

 おかしいなと思いながらしばらく聞いて、アッと気づきました。なんとスピーカー切り替えスイッチを忘れてCelestion UL-6のまま聞いていたのです。先ほどの高音も低音もUL-6のものでした。

 気を取り直して再挑戦です。しかし、それではエージングも出来ていないことになりますが、もう待ちきれません。エージングの時間もそこそこにして音出しすることにしました。

 聞こえてきた音は、あまりぱっとしたものではありませんでした。もっと軽快に前へ出て来る音を想像していました。クリフォード・ブラウンのトランペットがくすんで聞こえます。これが高域不足のせいなのでしょうか。

 次にいつもリファレンスレコードにしているマイルス・デイヴィスのバグス・グルーブを聞きました。ここで聞くミルト・ジャクソンのバイブの音がどう聞こえるかです。結果は、うーん、期待したバイブの珠のようなきらめきがありませんでした。

 それから数枚聞いてみたのですが、あまりぱっとしません。せっかく大枚はたいて落札したのに、これは失敗したかなぁと思いました。

 人気のある機種なので、オークションに出せば元くらい取り戻せるかなと思いました。また、皆さんが推奨しているツィーターの追加も考えました。

 LE8Tに合うツィーターをいろいろ調べて見ました。皆、JBLの名器、ユニットだけなので値段はそれほどしませんが2個合わせるとそこそこの金額になります。

 お金を掛けない方法としてひらめいたのが、この間ニコイチで作ったCelestion3、その余ったスピーカーにあるツィーターを2つ使うことです。

 外観からして同じ型ではなさそうですが、間違えて聞いたUL6のツィーターはクリフォード・ブラウンのトランペットを見事に鳴らしました。何処にもそんな記事は載っていませんが、Celestionのツィーターを使う手、廃品利用もかねて、案外面白い組み合わせになるのではと思えました。

 ただツィーターを追加して2ウェイにするにはいろんな方法があるらしいのですが、どれ一つとして私には自分の力では出来そうにありません。一番簡単そうな抵抗を入れて繋ぐという方法さえ、私にはわかりません。

 そんなこんなを思ったり、ふたたびオークションを行き来したりしながら、SP-LE8Tを聞き続けていました。聞き始めてから2.3日経った頃の事でした。

 ふと気づくとSP-LE8Tの音がいつの間にか生き生き響いているのに気づきました。耳がこのスピーカーに慣れてきたのか、ようやくエージングが進んだのでしょうか。

 LE8Tの音は、軽くてカルフォルニアの乾いた音とよく評されていますが、私には重量感のある音に聞こえました。それはユニットと言うよりサンスイのどっしりしたエンクロージャーのせいかもしれません。重くて馬力のある音がどんどん前に出てきます。この張り出し感がアルニコマグネットの特徴でしょうか。

 我が真空管アンプ、A3500は出力が20W+20Wしかないのですが、とてもアンプの非力さを感じさせません。それどころかもう一つのシステム、130WのYAMAHA、A2000aを上回るパワーを感じさせます。

 何より聞いていてすごく心地良いのです。これが真空管アンプとフルレンジユニットの組み合わせの魅力なのでしょうか。ずっといつまでも聞いていたくなるのです。

 レコードプレーヤーの調子が悪く、仕方なしCDを掛けまくっていたのですが、音の輪郭のはっきりした強い音で迫ってきます。

 暮れからお正月、一月の間、お天気の良い日も悪い日も、時間があると部屋に籠もってSP-LE8Tを聞きまくりました。50年代、60年代のジャズアルバムをとっかえひっかえして聞き直し、そのたびに新しい発見があり、聞けば聞くほど良くなっていく気がするのでした。


 今夜のBで始まる名前のジャズプレーヤーはBobby Timmons(ボビー・ティモンズ)です。彼はピアニストですが、アート・ブレーキージャズメッセンジャーズの演奏でおなじみの「モーニン」の作曲者でもあります。今夜は彼自身のピアノ演奏で「モーニン」です。